シャヌーン幻想 黄金のファラオ ー作・演出 中村 暁ー |
脚 本 シャヌーン幻想 |
プロローグ
客電が落ちると、人々の祈りの歌が聞こえてくる。 最初は声のみで、次第に歌詞が入る。静かに緞帳上がる。 コーラス『我らを導く 光 今だ無く 闇は深く 冷たく包み込む 夜明けを切望する 声よ響け 永遠にも思える 我らの嘆きを』 夜明け前を思わせるような空間、祈りの歌とそれに合わせるような群舞シーン。 舞台奥からシャヌーンとアリーシャ(姫)が、登場。 コーラス『哀しみは続かない 人の世に 光はやってくる 目を見開いて 心安らかに 希望は存在する 光はやってくる 互いを 思いやり 信じること 忘れないで 手を取り 生きること その先に 幸福があると』 祈りの歌に合わせて、二人の デュエットダンスになる。 いったん決まったところで、シャヌーンのソロパート。 シャヌーン『光になろう それが許されるなら 闇の中だからこそ 一筋の光に そう望み 生きられるなら 私は 生きよう 光となって 夜闇を照らす 星となって 皆と共に 永遠に 永遠に』 コーラス 『哀しみは続かない 人の世に 光はやってくる 目を見開いて 心安らかに 希望は存在する 光はやってくる 互いを 思いやり 信じること 忘れないで 手を取り 生きること その先に 幸福があると』 祈りが最高に盛り上がって、潮が引く感じでシャヌーン1人残して退場。 第一場 王宮の回廊 シャヌーンの銀橋ソロ。 シャヌーン『砂漠を渡る風 人々の声 今の 私には 遠い 遠い 守るもの 守るべきもの 深い闇の中 今の私は 宮殿(ここ)に ひとり 守るもの 守るべきもの 遠い 遠い 彼方に』 終わって本舞台に戻ると、セイレム(王子)が待っている。 セイレムは戦から戻ったという感じの、出で立ちである。 シャヌーン「セイレム、戻っていたのか。」 セイレム 「今、帰ってきたところだ。」 シャヌーンは友の無事を喜んで迎える。 シャヌーン「無事で何より。お前は戦に出ていない日がないほど、この宮殿で、見かけなくなった。 武勲をあげることは、良いことなんだろが、命は粗末に扱うなよ。」 セイレム 「帰った早々、説教かシャヌーン、俺はお前と違って剣をもてる。閉じこもって知識で武装する 柄じゃ無いんでね。」 シャヌーン「好んで今の待遇に甘んじている訳ではない。国のためだ。」 セイレム 「同盟国とは名ばかり、とでも、言いたそうだな。」 シャヌーン「…。」 セイレム 「自治権まで、奪っては居ない。友好の証として、お前がこの国に暮らしているだけだ。」 シャヌーン「人質…。私が剣を持てば、反逆の証になる。」 セイレム 「…。」 シャヌーン「今度の戦は長引いた気がするが、何処まで行ってきたんだ。」 セイレム 「それこそ、関係ないんじゃないのか、囚われの王子様にとってわな。」 シャヌーン「(少しムッとして。)羨ましいよ、国のために戦える。私は此処にこうしているしかない。」 セイレム 「…。」 アリーシャが登場する。 アリーシャ「兄上様。シャヌーン。こちらでしたか。」 シャヌーン「アリーシャ。どうかされましたか。」 アリーシャ「はい。父上が貴方をお呼びです。」 シャヌーン「国王が、私を…!?何用だろう…!? 」 セイレム 「アリーシャ…。」 シャヌーン「わかりました、急ぎ参ります。」 女官達に付き従われながら、シャヌーン退場。 セイレム 「アリーシャ…。父上は、アラザの現状を話されるおつもりなのか。」 アリーシャ「たぶん、兄上様が戻られたと言うことは、もうすでに、打つ手がないと言うこと、 あの方をお引き留めする理由は無くなります。」 セイレム 「そうだ、それは分かっている。私は何も出来なかった、援軍として出向きながら、 エジプト軍に押され、兵を失い、退く以外残された道はなかった。 友の国を見捨てる行為であっても、自らの民を守らなくてはならないから。」 アリーシャ「あの方にも、守る国が、民がございます。父上もそれを考えて…。」 セイレム 「アリーシャ、お前はよいのか、それで。それに今戻ってどうなるアラザは、倒れる。 いや、たぶんもうすでに…。」 アリーシャ「兄上様…。」 二人とも彼を国元に今や危険と分かっている国へ帰したくなかった。 静かに照明落ちる。 第二場 謁見の間 国王がシャヌーンの来るのを待っている。落ち着かない様子で、歩き回っている。 侍従が、シャヌーンが来たことを知らせる。 侍従 「アラザ国 シャヌーン様。」 シャヌーン登場。 シャヌーン「お呼びとのこと、私になに用でしょうか。」 国王 「シャヌーン、まいったか。いや、話があっての、(間)お前がこの国来て何年になる。」 シャヌーン「覚えておりません。此処より外に出られませんゆえ、時の流れに取り残されましてございます。」 国王 「皮肉か、余が、お前を連れてきた。このような生活を強いているのは、不服であろうが…。」 シャヌーン「国のためですから。」 国王 「シャヌーン …。」 セイレム 「父上は、お前が可愛くて仕方がないのさ、戦に出てばかりの俺より、手元に置ける、お前を頼り にしている。」 セイレムが登場する。 シャヌーン「ありがたいことだが、いずれは国に戻る。そう言う約束だったはずだ。」 セイレム 「アリーシャの、婿として、王位を譲ると言われたら …。」 シャヌーン「セイレム、お前の役目だ。私には私の国がある。」 セイレム 「尻込みするのか、しょせん人質の王子様は、立ち向かうことも出来ずに、解き放たれる日を、 待ち続けますってか …。」 シャヌーン「セイレム…。」 セイレム 「父上、もう良いでしょう、このような腰抜けにお言葉を掛けても、いくら知識に優れていても、 役には立ちませぬ。剣を持てない、それに甘んじるしかないのですから。」 シャヌーン「お話は、もうよろしいのですね。」 セイレム 「さがれ、さがれ、たいした用では無いのだろうからな。」 シャヌーン「失礼いたします。」 シャヌーン退場。 国王 「セイレム 。」 セイレム 「咎め立てなさるのですか。父上は彼を国元へ帰すおつもりですか、今更…。」 国王 「セイレム 、この度のアラザとエジプトの戦争は、この国にもいずれ災いをもたらす、それに、 いくらも隠し通せる物でもない。あれの耳に他の者より入るより、私の口から伝えるべきだと思っ ている。」 セイレム 「今戻れば、命はありません。」 国王 「だが、アラザは、シャヌーンの国じゃ、守るべき国、守るべき民を、あれも、背負っておる。 私達と同じにな。」 セイレム 「しかし…。」 国王はセイレムを、なだめるように。 セイレムはそれでも、シャヌーンを引き止めておきたいと思っていた。 静かに照明落ちる。 第三場 王宮の庭園 アリーシャが1人で佇んでいる。彼女のソロ。 アリーシャ『夜露を集めましょう あの方の 安らかな 眠りを呼ぶために 花を 摘みましょう 目覚めた時に 優しく香るように あの方に 人の世の日差しは強すぎる 覆い隠せるなら つなぎ止めれるなら 今 暫く このまま… 』 そこへ国王の所から戻ったシャヌーンが登場する。 シャヌーン「今日はセイレムの奴、何かにつけて、私の立場を馬鹿にした振る舞い。いつもは、気にかける ことではないと、笑っていたはずなのに、それとも今日の言動が本心なのか。国王も何か言いた げなのに、話そうとしなかった…。」 シャヌーン、可成り苛立っている。 戸惑うアリーシャ。 アリーシャ「 シャヌーン…。」 シャヌーン「アリーシャ。聞かれてしまいましたか…。」 アリーシャ「お話は終わりましたの。父上は何と…!?」 シャヌーン「セイレムに阻まれました。お話になりたいことが、確かにあったようには見受けられましたが、 どうも口ごもったご様子で、先に進みませんでした。」 アリーシャ「…。」 シャヌーン「セイレムも、何を思っているのか、貴方との婚儀の話を持ち出して、私に婿として王位をなどと…。」 アリーシャ「 シャヌーン…。」 シャヌーン「アリーシャ、婚儀の話に不服がある訳ではありません。貴方を妻とするなら私の国に迎えたい のです。国のためだけでない、確かな結びつきとして。貴方を連れ戻りたい。それは私の本心…。」 アリーシャ「ありがとうございます、アリーシャそのお言葉大切にいたします。」 シャヌーン「アリーシャ…。」 そこへ密偵風の男が、静かに登場する。 シャヌーン「何者だ…。」 アリーシャを、庇って立つ。 ラシード 「アラザ国 シャヌーン様。カナン国 アリーシャ様。」 シャヌーン「そうだ。お前は何処から来た、私達に何用だ。」 ラシード 「アラザより、参りました。シャヌーン様 私と共にお戻りください。アラザが、エジプトにより 倒されました。」 シャヌーン「エジプト…!?エジプトと戦になったと申すのか。」 ラシード 「突然、砂漠よりファラオの軍勢が現れ。野は焼かれ、家畜は殺され、男達は疲れ果て、女子供の 嘆きの声が聞こえない日はございません。」 シャヌーン「…。」 ラシード 「過日 カナン国より、援軍を送っていただきましたが、及ばず。セイレム様 率いるカナン国 軍勢退かれました。」 シャヌーン「それでは、セイレムは、アラザとエジプトの戦から戻ったと言うことか。」 ラシード 「父上 国王陛下よりのお言付けでございます。後継者たる、貴方に少しも早く国元へ戻れと…。」 シャヌーン「…。」 ラシード 「出来れば、明晩にもお迎えに上がります。どうかそのおつもりで…。」 告げるべき事を伝えるとそのまま退場する。 入れ替わるようにセイレムが登場している。 シャヌーン「セイレム何故、言わなかった。アラザは、私の国だそれなのに何故…。」 シャヌーンは彼に掴みかかる。 セイレム 「言ってどうなる。お前では軍は動かせない。俺なら何とか出来るかもしれない、助け出すはずだった、 そのつもりで向かったのだ…。」 シャヌーン「わかってる。私では力及ばないことは、しかし、自分の国も守れないのか、その力さえ与えら れないと言うのか。」 セイレム 「…。」 二人の対立していく思いを、掛け合いの歌にしたい。 シャヌーン『友なればこそ 信じていたのに』 セイレム 『友なればこそ 行かせたくはない』 シャヌーン『守るべきものがある』 セイレム 『そのために 命捨てるのか』 シャヌーン『行くべき所がある』 セイレム 『機会は訪れる 今じゃない』 シャヌーン『呼ぶ声がする この私を』 セイレム 『幻 耳をすますな』 シャヌーン『命賭ける時は来た』 セイレム 『命賭ける時はまだ』 シャヌーン『消えること無い 人々の声』 セイレム 『砂のように もろく崩れる』 アリーシャ『崩れ こぼれた 砂の粒 集まり 集えば 広い砂漠』 シャヌーン「アリーシャ…。」 セイレム アリーシャ『私も なりたい その一つに』 シャヌーン「…。」 セイレム アリーシャ「お待ちしています。」 対立していく二人を、アリーシャが、静めた形になる。 それぞれの思いを残して、暗転。 第四場 王宮の回廊 国王が侍従を数名連れて登場する。先ほどの男が、どこからとも無く登場して、国王を呼び止める。 二人だけになる。 ラシード 「カナン国 国王様。」 国王 「アラザの者か…。」 ラシード 「シャヌーン様 お連れしに参りました。」 国王 「…。」 ラシード 「お許しをいたたけますでしょうか。」 国王 「今やその権限はない、好きにするが良い。」 ラシード 「これまでのお力添え、我が国王に替わり、お礼申し上げます。」 国王 「…。」 ラシード 「今宵 アラザへ向かいます。」 ラシード 退場。 国王 「行くか。あれも行ってしまうのか。同盟国とは所詮建前のこと、それを承知で、我が手元に置いた。 だが、人質とはいえ実の子同様に扱ってきたつもりだ、シャヌーンよ、生きて戻れ、命を無駄にするな。」 暗転。 第五場 王宮の庭園 セイレムが佇んでいる。シャヌーンが登場する。 セイレム 「行くのか…。」 シャヌーン「…。」 セイレム 「命は粗末に扱うな…。お前が言った言葉だ、今はそのまま、俺の言葉だ。」 シャヌーン「セイレム 死ぬつもりはない、死ぬために行くのではない。生きるためだ、人々を生かすためだ、 この私にも、出来ることがあるのなら、一人此処に止まる理由はない。」 セイレム 「シャヌーン…。わかった。もう止めはしない。ただひとつ、これを…。」 自分の腰から剣をはずして、手渡す。 シャヌーン「…。」 受け取って。 セイレム 「人目を避けて、稽古していたこと、俺が気づいてないと思っていたのか。」 シャヌーン「セイレム …。」 セイレム 「生きて戻れ、俺や父上。なによりもアリーシャのために…。」 シャヌーン「…。」 その間に、ラシードが影のように現れている。 剣を受け取り、何も答えず。静かに見つめる。シャヌーン、そのまま銀橋へ。 旅立ちの決意を歌う。ソロ。 シャヌーン『私を 待つもの 私を 呼ぶもの この身 果てるとも 力の及ぶ限り 命の限り 望みを捨てず 守る命は 限りなく 友の想い 愛しい人の願い 許されるなら 必ず再び会える 己を信じて この道を進む 私には 今 それだけ…。』 その間にアリーシャが登場して、セイレムと共に見送る。 銀橋ソロが終わって。シャヌーン退場。 |
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